2026年7月末の最新決算で浮き彫りになった販売低迷を受け、メルセデス・ベンツ・グループ(MBG)の株価は46ユーロ台の割安な水準で推移しています。本記事では、PER8倍台・配当利回り7.7%という高配当の裏に潜む「中国市場への過度な依存リスク」と、経営陣が進める「内燃機関への回帰」戦略から、今後の投資判断のポイントを解説します。
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なぜメルセデス・ベンツの株価は割安なのか?直近の決算と指標から見える市場の警戒
まずは、市場が示す冷徹な事実から現在の評価を確認していきましょう。
投資を検討する上で、直近の業績と株価指標を正確に把握することは欠かせません。
2026年8月14日時点のフランクフルト証券取引所における、メルセデス・ベンツ・グループ(銘柄コード:MBG)の株価データは以下の通りです。
- 現在値:46.025 ユーロ
- 52週高値 / 安値:62.340 (2026/01/05) / 42.625 (2026/06/29)
- PER(株価収益率):8.69倍
- PBR(株価純資産倍率):0.46倍
- 配当利回り:7.70%(1株当たり配当額:3.50ユーロ)
この数字を見ると、PERが8.69倍、PBRが0.46倍と、同業のプレミアムブランドと比較しても非常に割安な水準に置かれていることがわかります。
さらに、7.70%という配当利回りはインカムゲインを狙う投資家にとって魅力的に映りますが、これは株主還元が手厚いという側面と同時に、株価自体が大きく下落している結果として相対的に高くなっている事実を見逃してはなりません。
株価低迷の直接的な引き金となったのは、2026年7月末に発表された第2四半期(4〜6月期)決算における、主力乗用車部門の利益率低下です。
インフレや金利高止まりによる世界的な消費の冷え込みに加え、高価格帯の「トップエンド・ラグジュアリー」モデルの販売が想定を下回ったことで、かつて二桁台を誇った営業利益率は低下傾向にあります。
市場の投資家たちは、この短期的な業績見通しや中長期的な成長シナリオに対して、強い警戒感を抱いていると考えられます。
その懸念の根源を探るには、企業経営の根幹を握る「株主構成」の現状に目を向ける必要があります。
中国資本が約20%を握る株主構成|販売の主軸と地政学リスクのジレンマ
企業の経営権を誰が握っているのかという事実は、ブランドの戦略や将来の方向性を決定づける重要な要素です。
現在のメルセデス・ベンツ・グループの株主構成を見ると、特定の国に対する依存度が極めて高いことがわかります。
2024年末時点から現在に至るまでの主要株主データは以下の通りです。
- 北京汽車集団(BAIC):9.98%
- Tenaciou3 Prospect Investment Limited(吉利 / Geely・李書福氏関連):9.69%
- クウェート投資庁:6.8%
長らく安定した資本を提供してきた中東のクウェート投資庁を抑え、現在トップ2を占めているのは中国の資本です。
国有自動車大手の北京汽車集団(BAIC)と、民営メーカーである吉利(Geely)関連ファンドの保有比率を合わせると、全体の約20%に達します。
ドイツ産業の象徴であるメルセデス・ベンツが、競合ひしめく中国の自動車メーカーに関連する資本に、これほどの影響力を持たれているという事実は重要です。
なぜなら、中国はメルセデスにとって世界販売台数の約30%以上を占める最大かつ最重要な市場だからです。
最大の顧客であり、同時に最大の株主でもある中国の意向を、現在の経営陣が無視して戦略を練ることは事実上不可能です。

この資本構造は、現地での合弁事業やサプライチェーン構築においてメリットを生む半面、地政学的なリスクに対して極めて脆弱な体質を作り出しています。
現在、欧州連合(EU)と中国の間で起きているEVの関税問題や貿易摩擦がさらに激化した場合、この株主構成と市場依存度がメルセデスにとって大きな経営リスクとなる可能性を、投資家は考慮しておくべきでしょう。
中国市場でのEV販売苦戦|現地メーカーとの価格競争とブランド価値の乖離
最大の市場であり大株主でもある中国に寄り添う姿勢を見せながらも、現在メルセデス・ベンツはまさにその中国市場でかつてないほどの苦戦を強いられています。
直近の決算報告でも、中国市場における販売台数の減少が全体の足を引っ張る最大の要因として挙げられました。
かつて中国の富裕層にとって絶対的なステータスであった同ブランドが輝きを失いつつある最大の理由は、新興EVメーカーとの激しい価格競争と「提供価値の乖離」です。
現在、中国市場では30万〜40万元(約640万〜860万円)という激戦区において、BYDや蔚来(NIO)、理想汽車(Li Auto)などの地元メーカーが高性能なEVを続々と投入しています。
これらの中国製EVは、最新のデジタル機能や高度な運転支援技術を標準装備しながら、メルセデスの同等モデルよりもはるかに安価に提供されています。
対するメルセデス・ベンツの主力EVモデルは、価格設定が高額であるにもかかわらず、その価格差を正当化するだけの圧倒的な技術的優位性や体験価値を現地の消費者に提示しきれていません。
さらに、自動車ライターの視点から分析すると、近年のメルセデス・ベンツの過度なデジタル化やデザインの方向性が、ブランド本来の洗練を損ねている懸念があります。
ダッシュボード全面を覆う巨大なスクリーン(MBUXハイパースクリーン)や、ロゴを過剰に配したフロントデザインは、最新テクノロジーを誇示する反面、かつてのメルセデスが持っていた人間工学に基づく質実剛健な設計思想とは相反するものです。
中国の富裕層も市場の成熟とともに、単なるブランドロゴの誇示から、車としての本質的な完成度やスマートな顧客体験を重視する層へと変化しています。
特定の市場に向けた過度なローカライズが、結果としてブランドのグローバルな魅力を希薄化させ、それが販売低迷という数字になって表れていると考えられます。
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ケレニウスCEOの決断|「2030年完全EV化」撤回とエンジン技術への現実的な回帰
しかし、この厳しい事業環境に対し、経営陣もただ静観しているわけではありません。
メルセデス・ベンツを率いるオーラ・ケレニウスCEOは、近年、非常に現実的で重要な経営戦略の軌道修正を発表しています。
それは、かつて掲げていた「2030年までに条件が許す市場で新車販売をすべてEVにする」という野心的な目標の事実上の撤回です。
2024年初頭の決算発表の場などで、経営陣は世界のEV需要の伸びが想定よりも鈍化している現実を認め、「2030年代に入っても内燃エンジン車(ガソリン車・プラグインハイブリッド車)の生産を継続する」という方針転換を明確にしました。
市場の一部からは「EV競争からの逃避」との批判もありましたが、ビジネスおよび自動車工学の視点から見れば、これは極めて合理的な判断です。
なぜなら、高度な制御技術を要する内燃機関(エンジン)とプラグインハイブリッド(PHEV)の組み合わせこそが、メルセデス・ベンツが1世紀以上にわたって磨き上げてきたコアコンピタンス(中核的強み)だからです。

バッテリーセルやモーターといった部品は技術のコモディティ化(均質化)が早く、国家規模の補助金を持つ中国メーカーとの価格競争では不利を免れません。
しかし、複数のシリンダーとモーターを緻密に連携させ、高速域でのシームレスな加速や長距離移動での圧倒的な快適性を実現する高度なシャシー制御技術においては、長年の蓄積を持つメルセデスに明確な優位性があります。
不透明なEV市場への過剰投資を抑制し、収益性の高い内燃機関モデルやPHEVの開発に資金を投じて確実な利益を確保するこの「現実路線」は、企業のキャッシュフローを安定させる重要な基盤となります。
投資家にとっても、巨額の開発費をコントロールし、配当原資となる手元資金を確保するこの判断は、ポジティブな戦略転換として評価できるはずです。
ライターの考察と見通し|ブランドの「コアコンピタンス」再構築が株価反転の鍵
ここからは、自動車ライターとしての分析と投資視点を交えた今後の見通しをお伝えします。
結論から言えば、現在のメルセデス・ベンツの株価は、中国市場への依存リスクやEV戦略の苦戦といった悪材料を、すでに相当程度織り込んだ水準にあると考えられます。
欧州の金融機関などのレポートでも、現在のPER8倍台という指標は底値圏に近いとする見方が存在します。
投資判断における最大の焦点は、同社が今後いかにして「メルセデス・ベンツにしか提供できない本質的な価値」を再構築し、市場に提示できるかどうかにかかっています。
車内空間における独自の静粛性や、時速200キロを超える速度域でもステアリングに微動だにしない直進安定性、長時間の運転でも疲労を最小限に抑えるシートの構造設計。
これらは、表面的なデジタル装備では決して模倣できない、長年の実証実験と膨大な走行データから導き出された「機械としての暗黙知」です。
ケレニウスCEOが主導する内燃機関への現実的な回帰路線は、この暗黙知を最も効果的に製品へ反映できる領域での戦いを選択したことを意味します。
もし同社が中国製EVとの不毛な価格競争から脱却し、ドイツのプレミアムブランドとしての質実剛健な設計思想とエレガントなデザインを取り戻すことができれば、利益率の回復とともに株価が反転する可能性は十分にあります。
投資家としては、足元の7.7%という高い配当利回りを享受しながら、経営陣による現実路線の成果が次の決算数値にどう表れてくるかを冷静に見極めるフェーズに入っていると言えるでしょう。
よくある質問
次の四半期決算の発表はいつ予定されていますか?
例年通りであれば、第3四半期(7〜9月期)の決算発表は2026年10月下旬に行われる予定です。ここで中国市場での販売推移や、利益率の改善傾向が見られるかが直近の株価を左右する大きなポイントになります。
内燃機関(エンジン)の開発投資は今後も継続されますか?
はい。経営陣は方針を転換し、2030年代以降も需要がある限り、内燃機関およびプラグインハイブリッド車(PHEV)の開発と改良に継続的な投資を行うことを明確に発表しています。
欧州連合(EU)による中国製EVへの追加関税はメルセデスにどう影響しますか?
EUによる関税引き上げは、中国メーカーの欧州進出を牽制する効果がある一方、中国政府による報復関税を招くリスクがあります。売上の約3割を中国に依存するメルセデスにとっては、大きなマイナス影響を及ぼす懸念材料として注視されています。
まとめ
2026年8月現在、メルセデス・ベンツ・グループの株価はPER8倍台、配当利回り7.7%と割安な水準にあります。この背景には、最大市場である中国での販売低迷と、株式の約20%を中国資本に握られている地政学的なリスクへの市場の警戒感があります。しかし経営陣は、過度なEVシフトを事実上撤回し、得意とする内燃機関と高度なハイブリッド技術で確実な利益を狙う現実路線へと舵を切りました。現在の株価は悪材料をある程度織り込んでおり、同社がブランド本来の設計思想と走行性能という「コアコンピタンス」を再構築できるかが、今後の企業価値向上の鍵となるでしょう。
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