ヤナセはかつてメルセデス・ベンツの日本総代理店でしたが、現在は正規販売会社の一つです。
「メルセデス・ベンツといえばヤナセ」という印象が残るのは、1952年から販売に携わり、日本の輸入車文化を長く支えてきた歴史があるためです。
現在はヤナセ以外にもシュテルン系などの正規販売会社があり、購入時は価格だけでなく、整備予約、代車、営業時間、EV対応まで店舗単位で比較する必要があります。
メルセデス・ベンツとヤナセの現在の関係とは?
メルセデス・ベンツ日本合同会社が日本のインポーター、ヤナセが顧客への販売や整備を担う正規販売会社です。
両社は同じ会社ではなく、現在のヤナセは日本総輸入元でもありません。
メルセデス・ベンツ日本合同会社は1986年1月21日に設立され、現在は「自動車とその関連製品の輸入・販売およびサービス」を事業内容としています。
海外で生産された車両を日本市場へ導入し、ブランド運営、商品情報、保証制度、リコール対応、正規販売網などの基盤を整える立場です。
メルセデス・ベンツ日本の公式企業情報では、2026年8月2日の確認時点で「メルセデス・ベンツ正規販売拠点数」は198拠点とされています。[注1]
一方、株式会社ヤナセはメルセデス・ベンツ日本との正規販売店契約に基づき、各店舗で次のような業務を行います。
- 新車の説明、試乗、商談
- 見積もり、下取り査定
- ローンやリースなどの購入方法の提案
- 車両登録、納車
- 定期点検、車検、一般整備
- メーカー保証やリコールへの対応
- 認定中古車や自動車保険などの相談
役割を整理すると、次のようになります。
区分 主な役割 購入者との主な接点
メルセデス・ベンツ日本合同会社 車両の輸入、ブランド運営、商品・保証制度、正規販売網の構築 公式サイト、ブランド施策、問い合わせ窓口
株式会社ヤナセ 正規販売店の運営、新車・中古車販売、点検、車検、整備 試乗、見積もり、契約、納車、入庫
シュテルン系などの正規販売会社 メルセデス・ベンツ日本との契約に基づく販売・整備 地域のショールーム、サービス工場
購入者 条件や利用環境に合う販売店を選ぶ 複数店の比較、契約、アフターサービス
つまり、メルセデス・ベンツ日本が制度と商品の土台をつくり、ヤナセやシュテルン系の販売会社が店舗で顧客へ届けるという関係です。
198拠点とヤナセ約100店は単純比較できない
ヤナセは2026年1月9日の発表で、同社が展開する「メルセデス・ベンツ新車販売店」は全国に約100拠点あると説明しています。[注2]
ここで注意したいのは、メルセデス・ベンツ日本の「正規販売拠点198拠点」と、ヤナセの「新車販売店約100拠点」は、名称も集計対象も同じとは限らないことです。
正規販売拠点には新車販売だけでなく、運営形態や機能の異なる拠点が含まれる可能性があります。一方、ヤナセ側の数字は「新車販売店」と明記されています。
したがって、「198拠点の半数以上がヤナセ」といった単純な割合計算はできません。
ただし、全国約100の新車販売店を展開しているという発表から、ヤナセが現在もメルセデス・ベンツの国内販売網で大規模な役割を担っていることは読み取れます。
なぜ「メルセデス・ベンツといえばヤナセ」なのか?
ヤナセの印象が強い理由は、戦後間もない1952年からメルセデス・ベンツの販売を担ってきたためです。
日本におけるメルセデス・ベンツの歴史は、1912年にメルセデス・カルダンヴァーゲンが御料車として輸入されたことから始まります。
1933年には東京のルード・ラーティンエン商館が販売を開始しました。[注1]
戦後の1952年5月、ヤナセが全額出資して設立したウエスタン自動車が、ダイムラー・ベンツ社から販売権を獲得しました。
ヤナセは戦前からメルセデス・ベンツの指定サービス工場として整備を担当しており、その技術的な実績が販売権の取得につながったと説明しています。
1954年4月には、ヤナセグループにダイムラー・ベンツ社製品の日本総代理権が正式に認められました。[注3]
主な流れを整理すると、次のとおりです。
- 1952年5月:ウエスタン自動車がメルセデス・ベンツの販売を開始
- 1954年4月:ヤナセグループに日本総代理権が正式承認
- 1969年:メルセデス・ベンツ新車累計販売1万台に到達
- 1986年1月:メルセデス・ベンツ日本株式会社が設立
- 1987年1月:車両の輸入権がメルセデス・ベンツ日本へ移管
- 2006年10月:ヤナセがメルセデス・ベンツのディーラー専業体制へ移行
- 2020年7月22日:ヤナセの新車累計販売が100万台に到達
この沿革と累計販売台数は、ヤナセが2020年7月25日に公表したプレスリリースで確認できます。[注4]
1986年にメーカーの日本法人が設立され、翌1987年に輸入権が移管されたことで、ヤナセの立場は日本総代理店から正規販売会社へと変わりました。
しかし、制度上の役割が変わっても、長年築いてきた店舗網、整備技術、顧客との関係まで消えるわけではありません。
2020年の累計100万台達成は、単に多くの車を販売したという記録ではなく、それだけ多くの納車、点検、車検、修理、乗り換えに関わってきたことを意味します。
車のブランドイメージは、メーカーが発信する広告だけで完成するものではありません。
どの街にショールームがあったか。故障したときに誰が迎えたか。父親がどの販売店で車を買い、その車を子どもが後席から眺めていたか。
そうした個人の記憶が世代を超えて重なり、「ベンツといえばヤナセ」という社会的な印象になったのだと僕は考えます。
ヤナセとシュテルン系ディーラーの違いは?
車両の基本品質やメーカー保証ではなく、運営会社、販売条件、店舗設備、営業時間、購入後の対応に違いが表れます。
現在の正規販売網は、ヤナセだけで構成されているわけではありません。
たとえば株式会社シュテルン天王寺は、メルセデス・ベンツ日本と正規販売店契約を結び、1989年1月に関西初のシュテルン法人として販売事業を開始しています。
同社は公式情報で、天王寺、北大阪、堺北、伊丹の新車4拠点と、北大阪、伊丹の認定中古車2拠点を案内しています。[注5]
東京都のメルセデス・ベンツ高井戸も、株式会社シュテルン高井戸が運営する正規販売店として、メルセデス・ベンツ日本の公式ディーラー検索に掲載されています。[注6]
「シュテルン」はドイツ語で「星」を意味し、日本ではメルセデス・ベンツの正規販売法人の商号として使われています。
ただし、すべてのシュテルン系販売会社が同じ企業グループというわけではありません。地域ごとに異なる法人が運営しているため、店名だけでなく、公式ディーラー検索に記載された運営会社名まで確認することが大切です。
正規店なら車の品質は変わるのか
同一モデル、同一仕様の新車であれば、ヤナセで購入した車とシュテルン系販売店で購入した車で、製造時の基本品質が変わるわけではありません。
新車保証やメルセデス・ケアなどのメーカー制度も、基本的にはメーカーが設定した条件に基づきます。
一方、実際の販売価格、販売店装着品、下取り査定、代車、入庫予約、店舗の休日などは販売店によって異なります。
メルセデス・ベンツ公式サイトも、表示価格は消費税込みのメーカー希望小売価格であり、保険料、税金、登録費用、リサイクル料金、キャンペーンによる値引きなどは含まれず、販売価格は各販売店が独自に定めると案内しています。[注7]
したがって、比較するべきなのは「同じ車が安いか」だけではありません。
同じ車を数年間所有したとき、費用と手間がどれほど違うかまで見る必要があります。
公式情報を同じ条件で比較して分かったこと
僕は2026年8月2日、ヤナセとシュテルン系販売会社の公式情報を、営業時間、休日、整備設備、充電設備という同じ項目で横断確認しました。
現地訪問や販売員への聞き取りではなく、各社が一般公開している情報を使った比較です。
店舗 運営会社 公表されている営業時間 定休日 公表された主な設備
メルセデス・ベンツ千里 株式会社ヤナセ 平日10時~17時、土日祝10時~18時 月曜日、第2火曜日など 14ベイ、検査ライン、充電器4基
メルセデス・ベンツ港北 株式会社ヤナセ 平日10時~17時、土日祝10時~18時 月曜日、第2火曜日など 29ベイ、検査ライン、充電器5基
メルセデス・ベンツ天王寺 株式会社シュテルン天王寺 10時~18時 水曜日、第1・第3火曜日など 会社案内ページではベイ数・充電器数の記載を確認できず
ヤナセ千里支店の設備は2026年1月9日、ヤナセ横浜港北支店の設備は同年1月16日のリニューアル発表に基づきます。
千里は新車展示7台、14ベイ、充電器4基、港北は新車展示9台、29ベイ、充電器5基と公表されました。[注2・注8]
これはヤナセの店舗同士であっても、店舗規模や整備能力が一律ではないことを示しています。
また、シュテルン天王寺の公式ページでは営業時間と定休日を確認できますが、会社案内ページだけではサービスベイ数や充電器数まで把握できませんでした。[注5]
情報が掲載されていないことは、設備が存在しないという意味ではありません。
むしろ、ウェブサイト上で確認できる情報の詳しさ自体が販売会社ごとに違うため、必要な設備は来店前に直接確認すべきだと分かります。
ヤナセと他の正規販売店はどう選ぶ?
結論は、ブランド名ではなく、同一条件の支払総額と購入後の利用環境を比べて選ぶことです。
ヤナセの長い歴史や広いネットワークは、購入先を選ぶうえで大きな安心材料になります。
ただし、「ヤナセだから必ず安い」「シュテルンだからサービスが違う」と会社名だけで判断することはできません。
ヤナセを有力候補にしやすい人
次のような人は、まずヤナセを候補に入れやすいでしょう。
- 自宅や勤務先の近くにヤナセの販売・整備拠点がある
- 長年のメルセデス・ベンツ販売実績を重視する
- 車検、保険、タイヤなどをまとめて相談したい
- 転勤や転居の可能性があり、広い店舗網を重視する
- 新車と中古車の両方を相談したい
- メルセデス・ベンツ以外の輸入車も含めて乗り換えを検討する
ただし、新車と認定中古車を同じ担当者や同じ建物で比較できるかは、店舗の機能や運営体制によって異なります。
希望する比較方法がある場合は、予約時に伝えておいたほうが確実です。
シュテルン系なども比較したほうがよい人
次の条件に当てはまる場合は、ヤナセだけで決めず、他の正規販売店からも見積もりを取る価値があります。
- 通える範囲に複数の正規販売店がある
- 希望する車種、色、装備の在庫を優先したい
- 下取りを含む最終的な支払総額を比較したい
- 担当者の説明力や返信の速さを重視する
- 定休日や営業時間が生活に合う店舗を選びたい
- 整備予約、代車、EV充電対応を細かく確認したい
見積もりは、車種名だけを合わせても正確に比較できません。
少なくとも次の条件をそろえる必要があります。
- モデルとモデルイヤー
- グレード
- ボディーカラー
- メーカーオプション
- 販売店装着品
- 登録予定時期
- 頭金と支払い回数
- 下取り車の有無
- メンテナンス商品
- 保険を見積もりに含めるか
下取り車がある場合は、「車両本体の値引き」と「下取り査定額」を分けて提示してもらうことが重要です。
二つが一つの数字にまとめられると、本当に条件が良いのか判断しにくくなるからです。
販売店に聞きたい三つの質問
僕なら、見積金額とは別に次の三つを質問します。
一つ目は、「この車を僕の使い方で選んだ場合の弱点は何ですか」です。
信頼できる担当者は、売りたい装備の魅力だけでなく、車幅、後席、荷室、タイヤ費用、燃費、充電環境など、不都合になり得る点も説明します。
二つ目は、「納車後の点検予約は、どの方法で何日前から取れますか」です。
ウェブ、電話、アプリなど予約方法を確認し、繁忙期の待ち時間や、急な警告灯が点いた場合の相談先も聞いておきます。
三つ目は、「代車が必要な場合の料金と条件を、書面に残せますか」です。
代車は常に無料とは限りません。作業内容、予約状況、保険条件によって扱いが変わるため、口頭説明だけで判断しないほうが安心です。
高坂遼の考察|販売店選びは所有環境の設計である
ここからは、自動車ライターとしての私見です。
メルセデス・ベンツとヤナセの関係を理解する鍵は、昔は日本総代理店、現在は大手正規販売会社という役割の変化にあります。
この変化を知ると、「ヤナセでなければ正規のメルセデスではない」という考えが正しくないことが分かります。
同時に、「どの正規販売店で買っても所有体験まで完全に同じ」という考えも、現実とは少し離れています。
車両そのものは同じでも、連絡の速さ、説明の透明性、整備の予約方法、定休日、代車、店舗までの距離によって、購入後の印象は変わるからです。
僕は販売店を、車を買うためだけの場所ではなく、その車を無理なく所有できる環境を設計する場所だと考えています。
ショールームで過ごす商談時間は数時間でも、その後の所有期間は数年に及びます。
点検のたびに半日を失う店舗と、生活動線の中で無理なく立ち寄れる店舗では、同じメルセデス・ベンツでも心に残る景色が違ってきます。
これからは、その差がさらに大きくなる可能性があります。
電気自動車やプラグインハイブリッドでは、車両の説明だけでなく、自宅充電、外出先の充電、アプリ連携、デジタル機能、ソフトウェア更新まで理解する必要があります。
販売店には、機械を説明する力だけでなく、複雑な機能を一人ひとりの生活へ翻訳する力が求められます。
ヤナセの歴史は、確かに大きな価値です。
しかし、その70年以上の歴史を、目の前の一台への安心に変えられるかどうかは、実際に接する店舗と担当者にかかっています。
だから僕は、「ヤナセだから選ぶ」のではなく、「このヤナセ店舗なら任せられる」と感じられるかを見ます。
シュテルン系についても同じです。
看板は入口を教えてくれますが、長く付き合う相手を決めるのは、説明の誠実さと、納車後の支え方です。
ハンドルを握るたび、心の奥に小さな灯がともる。
その灯を守るのは車の性能だけではなく、見えない場所で一台を支える人と仕組みなのです。
よくある質問
メルセデス・ベンツとヤナセは同じ会社ですか?
同じ会社ではありません。
メルセデス・ベンツ日本合同会社は日本のインポーターであり、株式会社ヤナセは正規販売店を運営する販売会社です。
メルセデス・ベンツはヤナセでしか買えませんか?
ヤナセ以外の正規販売店でも購入できます。
シュテルン天王寺やシュテルン高井戸など、メルセデス・ベンツ日本と正規販売店契約を結ぶ複数の運営会社があります。
ヤナセとシュテルンで車の品質は違いますか?
同じモデル、同じ仕様の新車であれば、製造時の基本品質が販売会社によって変わるわけではありません。
ただし、販売価格、下取り、担当者の対応、営業時間、整備予約、代車、店舗設備などには違いがあります。
ヤナセのほうが価格は高いのでしょうか?
会社名だけで高い、安いとは断定できません。
販売価格は各正規販売店が独自に定めるため、同一車種、同一装備、同一支払い条件の総額で比較してください。
まとめ
ヤナセは1952年からメルセデス・ベンツの販売に携わり、1954年には日本総代理権を取得しました。
1986年にメルセデス・ベンツ日本が設立され、1987年に輸入権が移管されたことで、現在のヤナセは日本総輸入元ではなく、大手正規販売会社という位置づけです。
現在はシュテルン系をはじめ、ヤナセ以外にも複数の正規販売会社があります。
正規店で購入する限り、比較の中心になるのは車両の基本品質ではなく、支払総額、店舗への通いやすさ、整備予約、代車、営業時間、EV対応などです。
「ベンツといえばヤナセ」という歴史的な安心感は、購入先を選ぶ有力な材料になります。
しかし、最後は会社名だけで決めず、同じ条件で複数の見積もりを取り、購入後まで任せられる店舗を選んでください。
情報源・調査方法
情報確認日:2026年8月2日。
本記事は、メルセデス・ベンツ日本合同会社、株式会社ヤナセ、株式会社シュテルン天王寺およびメルセデス・ベンツ公式ディーラー検索の公開情報を照合して作成しました。
筆者による現地訪問、販売員への聞き取り、同一車両の商談見積もり取得は行っていません。そのため、値引き額、納期、代車の利用条件など、公開情報で確認できない項目については優劣を断定していません。
- 注1:メルセデス・ベンツ日本合同会社「企業情報・日本における歴史」、2026年8月2日確認
- 注2:株式会社ヤナセ「ヤナセ千里支店をリニューアルオープン」、2026年1月9日発表
- 注3:株式会社ヤナセ「ベンツ社の日本総代理権獲得(1954)」、2026年8月2日確認
- 注4:株式会社ヤナセ「メルセデス・ベンツ新車累計販売100万台を達成」、2020年7月25日発表
- 注5:株式会社シュテルン天王寺「私たちについて」、2026年8月2日確認
- 注6:メルセデス・ベンツ日本「公式ディーラー検索・メルセデス・ベンツ高井戸」、2026年8月2日確認
- 注7:メルセデス・ベンツ日本公式サイト「車両価格について」、2026年8月2日確認
- 注8:株式会社ヤナセ「ヤナセ横浜港北支店をリニューアルオープン」、2026年1月16日発表
営業時間、定休日、販売拠点数、展示車、試乗車、充電器の稼働状況、在庫、販売価格、キャンペーン、保証内容は変更される場合があります。
来店、試乗、契約、整備入庫の前に、メルセデス・ベンツおよび各販売店の公式情報で最新内容をご確認ください。
執筆:高坂 遼(こうさか・りょう)
自動車ライター|ドライビング・フィロソファー|モーターストーリーテラー

