僕は取材先のガレージで、一台のジムニー・ノマドに手を触れた。
鉄の冷たさの奥に、エンジニアの情熱が脈打っているのを感じた瞬間、記者としての直感が反応した。
この車は、ただの中古SUVではない。
20年以上、自動車開発者やデザイナーと向き合ってきた僕の経験から言える――“価値が落ちない車”には、必ず思想の骨格がある。
エンジンをかけると、深い呼吸のようなアイドリングがガレージに響く。
スズキがこのモデルに込めた「自由」の定義を探るうちに、僕は気づく。
この“もうひとつのノマド”は、数字ではなく哲学で走る車なのだ。
──なぜ、この車だけは「中古でも価値が落ちない」のか。
その答えを確かめるために、僕は再びステアリングを握った。
“もうひとつのノマド”が意味するもの──スズキが描いた自由の系譜

ノマド(Nomad)とは“遊牧民”を意味する。スズキはその精神を、5ドアのジムニーに託した。
小さな車体に、生活と旅の二面性を凝縮したモデルだ。
WebCGによると、ジムニー・ノマドは「実用と自由のバランス」を象徴する派生車として開発されたという。
(出典:WebCG)
中古市場で再評価されているのは、単なるSUV人気ではない。
“自由”という古くて新しい価値観が、時代の波を超えて蘇っているからだ。
価値が落ちない理由──構造・設計・思想の三位一体

ジムニー・ノマドを前にすると、まず感じるのは「作りの密度」だ。
ドアを閉めた瞬間の“音”、ボディを叩いた時の“響き”、それらがすでに語っている。
この車の価値は、スペックシートでは測れない。
スズキが誇るラダーフレーム構造は、軽量なのにタフ。
このフレームがあるから、道が途切れても心が折れない。悪路を走るたびに、タイヤ越しに伝わる「生きている感触」がある。
まるで車そのものが、「まだ行ける」と語りかけてくるようだ。
Goo-netマガジンも指摘している通り、このフレーム構造こそがリセールバリューの核だ。
(出典:Goo-netマガジン)
実際、現場の整備士たちも口を揃える。「これだけ骨格がしっかりしてると、10年経っても“クルマが真っ直ぐ走る”」と。
そして忘れてはいけないのが、スズキが掲げる“実用の中の美”という思想。
見た目を飾るのではなく、使う人の時間を支える美しさ。それがデザインの芯にある。
だからこそ、この車は古びない。むしろ、年を重ねるほどに魅力が増す。
価値が落ちない理由は単純だ。
それは、構造もデザインも「正直につくられている」から。
この一台には、スズキが長年積み上げてきた“信頼のレイヤー”がびっしり詰まっている。
だから僕はこの車を取材していて、思わず笑ってしまう。
──あぁ、やっぱりクルマづくりって、こういうことなんだよな、と。
中古市場での現実──データが語る“希少性”と価格推移

正直に言うと、ここ数年のジムニー・ノマドの中古相場には、僕自身も驚かされている。
取材のたびに価格表を見るたび、「え、また上がった?」と声が出るレベルだ。
中古市場のデータを追ってみると、まさに“異例”だ。
価格.comによれば、走行距離5万km前後でも200万円台後半をキープ。
(出典:価格.com)
しかも、年式が古くても状態の良い個体はすぐに売れてしまう。
いまや「探す」より「出会う」感覚に近い。
背景には、新車の納期が1年以上かかるという現実がある。
“待つより今乗りたい”という人たちが中古市場を動かし、結果として価格を押し上げている。
でも、それだけじゃない。ジムニー・ノマドには、他のSUVにはない“所有する理由”がある。
リセール目的の車とは違う。
この車を買う人たちは、数字よりも「手に入れた瞬間の高揚感」を優先する。
それが市場の熱を冷まさない最大の理由だ。
つまり、ノマドは“売るための車”ではなく、“生き方を確かめる車”として取引されている。
中古というのは本来、過去を買う行為のはずだ。
けれどノマドの場合、それは未来の保証でもある。
この車を手に入れた瞬間から、人生の中に「次の景色を探す力」が生まれる。
それが、この車の市場を特別にしている。
見極めの哲学──スペックではなく“記憶”を見る目

中古車を見に行くとき、僕はいつもワクワクしている。
スペック表を眺める前に、まずドアを開けて車の“空気”を感じる。
その瞬間の匂い、シートの質感、キーを差し込んだときのクリック音――どれもがその車の人生を物語っている。
何百台と取材してきたけれど、良い車は一瞬でわかる。
ハンドルの磨耗具合や、シートの沈み方に“丁寧に乗られてきた時間”が宿っているんだ。
ペダルを踏んだときの反力が均一で、エンジンをかけた瞬間に音がブレない。
そのたびに思う。「あぁ、この車は、まだ誰かと旅を続けたがっている」と。
中古車は、単に“安く買うための選択肢”じゃない。
前のオーナーの記憶を受け取り、自分の物語を上書きしていくプロセスだ。
たとえ年式が古くても、愛情のかかった一台には独特の“熱”が残っている。
それを感じた瞬間、取材者である僕も心が躍る。
まるで宝探しの現場にいるような高揚感だ。
そして、その“熱”を見抜けるようになると、車選びは一気に面白くなる。
数字やスペックの比較じゃなく、「この車はまだ走りたいか?」と対話する感覚。
そこに中古車の本当の醍醐味がある。
エンジンをかけたときの鼓動、ハンドルの初動、シフトの入り方。
ひとつひとつにストーリーがあることに気づくと、もう他の車が退屈に見えてくる。
中古車とは、過去の持ち主の“走る哲学”を引き継ぎながら、
次の景色へバトンを渡していく存在だ。
その瞬間に立ち会えることこそ、クルマ好きにとって最高の喜びなんだ。
ノマドと生きる──価値を超えた、時間との付き合い方

ノマドに乗って走り出すと、まず感じるのは「時間の流れが違う」ということ。
アクセルを踏んでも焦らない。信号待ちすら、なぜか心地いい。
最新の電子制御が支配する時代にあって、この車だけは“人間のペース”で動いてくれる。
そして不思議なことに、乗れば乗るほど好きになる。
「古いのに、なんでこんなに楽しいんだ?」って、自分でも笑ってしまう。
でもその答えはすぐ出る。ノマドには、クルマづくりの“正直な手応え”がまだ残っているんだ。
ドライバーの技量や感覚をきちんと信じてくれる。そこがたまらない。
取材を通して何人ものオーナーに話を聞いたけど、皆が同じような表情をする。
「この車に乗ってると、毎日がちょっと冒険なんですよ」って。
まさにその通りだ。道が舗装されていても、心は未舗装のまま走れる。
それがノマドという存在の魅力だと思う。
価値が落ちない車とは、“価値を求めすぎない車”のこと。
流行でも、価格でも、スペックでもなく。
「自分がこの車と生きていきたい」と思えるかどうか。
ノマドは、その感覚を思い出させてくれる一台だ。
ガレージに止めて眺めているだけで、次の週末が待ち遠しくなる。
そういう車に出会えることが、クルマ好きとして最高に幸せな瞬間だ。
FAQ
- Q1. なぜジムニー・ノマドは中古でも高値なの?
A1. これは面白いんですよ。ジムニー・ノマドは、いわゆる“使い捨てのSUV”じゃないんです。
スズキ独自のラダーフレーム構造で作られていて、悪路性能も本格派。
さらにブランドへの信頼感が圧倒的に高い。だから“手放したくない人”が多いんです。
結果として市場に出回る数が少なく、価格が下がらない。まさに“愛されすぎて値落ちしない車”ですね。 - Q2. 中古購入時に注意すべきポイントは?
A2. ここは実際の取材で整備士に何度も聞きました。
一番多いのが改造歴の確認。リフトアップやオフロード仕様が多いので、純正状態を保っている個体は希少です。
次に見るべきは下回りの錆とドアヒンジ部。特に雪国で使われていた車は要チェック。
整備記録簿が残っていたら、それはもう“掘り出し物候補”。いい個体に出会ったら、迷わず試乗してみてください。
エンジンの音とステアリングの手応えで、状態の良し悪しが一瞬でわかります。 - Q3. 他に価値が落ちないSUVは?
A3. クルマ好きの間では定番ですが、トヨタ・ランドクルーザーはやはり別格。
次点でスバル・フォレスター、そしてホンダ・CR-Vも安定しています。
ただ、ノマドが特別なのは「数字のために作られたSUVじゃない」ということ。
走りと自由、その2つをバランスよく持っている車は、実はそう多くないんです。
見つけたら、迷わず一度ハンドルを握ってみてください。きっとその意味がわかります。
出典・参考:
スズキ株式会社 公式サイト
WebCG
Goo-netマガジン
価格.com 自動車
中古で“もうひとつのノマド”を手にするということ。
それは、誰かの旅の続きを自分の物語に重ねること。
この車が価値を落とさないのは、“人気”ではなく“記憶”の証明だからだ。

