冷たい空気をまといながらも、その姿には確かな生命感が宿っていた。
小さなボディに、ひとつ増えたドア。
それは単なる構造の変化ではない。
長年ジムニーを追いかけ、開発現場で幾度もその進化を見つめてきた僕には──
この“もう一枚の扉”が、スズキという企業の哲学の転換点に思えた。
ジムニー・ノマド。
それは2025年春、スズキが放った新たな挑戦であり、「5ドアの自由」という概念を具現化した存在だ。
半世紀以上続くジムニーの歴史の中で、これは最も静かで、最も大胆な革新だと思う。
僕はこのクルマを、単なる派生モデルではなく、“冒険という行為の再定義”として受け止めている。
そのドアを開くとき、人は新しい道ではなく──新しい自分と出会うのかもしれない。
5ドアという選択──ノマドが生まれた理由
「来たな、ついに。」──スズキからジムニー・ノマドの正式リリースが届いた瞬間、心が少し高鳴った。
2025年4月3日、あの“伝説の小さな四駆”が、ついに5ドアとして日本に姿を現したのだ。
(スズキ公式リリース)
開発陣が掲げたテーマは「自由を分かち合うジムニー」。
この一言を聞いたとき、僕は思わず笑ってしまった。
なぜなら、それはジムニーを長年見続けてきた人間にとって、あまりにも大胆な挑戦だったからだ。
これまでのジムニーは“ひとりで自然と向き合うための道具”だった。
無骨で、簡素で、孤高。その潔さこそが魅力だった。
だがノマドは違う。リアドアを手に入れた瞬間、このクルマは“人とつながる冒険車”に進化した。
2枚のドアが増えた。それだけで、世界が広がる。
家族を乗せられる。仲間と荷物を詰め込める。
そして何より、自分の中の“もうひとりの冒険心”を連れ出せる。
スズキがこのタイミングで5ドアを出した理由は明確だ。
冒険は、もはや特別な人だけのものじゃない。
誰もが日常の延長で、自分のペースで“非日常”を楽しめる時代になった。
ジムニー・ノマドは、その時代の象徴だと僕は思う。
デザインの進化とサイズの哲学
最初に実車を見た瞬間、思わず声が出た。
「これ、ちゃんとジムニーだ。」
それでいて、まるで“ひとまわり大きな未来”を見ているような感覚になった。
ノマドのホイールベースは従来比で＋340mm。全長は3,890mm。
数字だけ見れば小さな差に思えるかもしれない。
けれど、その340mmがもたらす体験は、まるで別世界だ。
リアドアを開けた瞬間、空気が変わる。
後席のスペースに腰を下ろすと、「ああ、これで旅が変わる」と直感する。
視界の抜け、足元の余裕、ラゲッジとの距離感。どれも“ちょうどいい”を超えてくる。
しかも驚くのは、5ドアになってもジムニーの顔がまったく崩れていないこと。
垂直基調のボディラインも、力強いフェンダーアーチも健在。
むしろ全体が締まって見える。これはもう、デザインの勝利だ。
「必要最小限の拡張」と言うより、“目的のある進化”と言いたい。
ジムニーの本質──軽さ、タフさ、無駄のなさ──をそのまま残しながら、
旅の可能性をあと一歩広げた。
そのバランス感覚に、開発陣のセンスと執念を感じずにはいられない。
もしあなたが今までのジムニーを見慣れているなら、ノマドはちょっとした衝撃になるはずだ。
「これで5ドア？」「このサイズでこのまとまり？」
そう思った瞬間、もうそのデザインに惚れている。
1.5Lの鼓動──スペックと走りの感触
エンジンをかけた瞬間、思わずニヤッとした。
「おいおい、これがノマドの1.5Lかよ」と。
スペック表の数字を知っていても、実際に聞こえる音と手に伝わる鼓動は、想像よりずっと熱い。
ノマドの心臓部には、自然吸気の1.5L直列4気筒エンジン（K15B型）が息づく。
最高出力102ps／6,000rpm、最大トルク130Nm／4,000rpm。
カタログ上は派手ではない。だけど、走らせた瞬間にわかる──この数字、かなり“正直”だ。
アクセルを半分ほど踏み込むと、1.5Lとは思えない力強さで車体を押し出していく。
それでいて荒々しさはなく、どこまでもスムーズ。
まるで「おい、まだ行けるぞ」と背中を軽く押されているような感覚だ。
5ドア化でボディは重くなったはずなのに、不思議と“重さ”を感じない。
峠の上り坂でも、トルクが地面を掴んで離さない。
エンジンの粘りとギアの節度感──このコンビネーションがたまらない。
そして、ステアリングを切ったときのあの感触。
グッと荷重が乗って、タイヤが地面を噛む瞬間。
そのリアルな接地感が、ジムニーらしさを何倍にも増幅している。
これぞ“機械を操る楽しさ”の原点だ。
舗装路では驚くほど静かで素直。
悪路に踏み入れば、途端に筋肉質な一面を見せる。
静と動、軽と剛。
この二面性が、ジムニー・ノマドというクルマの魅力を深くしている。
走るたびに思う。
「ああ、このクルマ、作った人たちが本気で楽しんでるな」と。
その空気が、エンジンの鼓動にまで染み込んでいる。
内装と装備──“旅を続けるための居場所”
運転席に腰を下ろした瞬間、思わず「おっ」と声が出た。
ノマドのインテリアは、写真で見るよりずっと“生きている”。
外のワイルドさとは対照的に、触れるたびに温かみがある。
ダッシュボードはマット仕上げの樹脂に、メタル調パネルがきりっと走る。
指で軽く叩くと「コッ」と響くその感触が、なんとも頼もしい。
シンプルだけど、いい意味で“道具っぽい”。
使い込むほど味が出る、そんな素材選びだ。
そしてリアシート。
5：5分割可倒式になったことで、想像以上に自由度が高い。
倒してみると、面がほぼフラットになる。
荷物を積んでもいいし、寝転がってもいい。
この瞬間、「ああ、これが5ドアの正解か」と納得した。
ラゲッジスペースは3ドア比で約1.4倍。
数字以上に“広がった実感”がある。
クーラーボックス、焚き火台、折りたたみチェア……
今まで諦めていた荷物が、すっぽり収まるのが嬉しい。
装備面も抜かりない。
メーターの視認性、スイッチ類の配置、シートのサポート感──
どれも“わかってるな”という設計。
長距離を走っても疲れにくいのは、この緻密な作り込みの賜物だ。
そしてボディカラー。全6色の中でも、僕のお気に入りはセレスティアルブルー。
屋外で見ると、太陽光の角度で印象が変わる。
晴れの日は爽やかに、雨の日は深みを帯びて落ち着く。
「この色でどこへ行こうか」と考えるだけで、もう少し走りたくなる。
ジムニー・ノマドの室内には、“冒険のあとに休める静けさ”がある。
ただ走るだけじゃない。
走った先で、ちゃんとくつろげる。
そのバランスが、このクルマの最大の魅力だ。
“待つ価値”──予約・受注・出荷停止の真相
「やっぱり、そう来たか。」
発売発表の翌日、取材先の編集部に戻ると、ノマドの話題で持ちきりだった。
どのメディアも速報を出し、販売店には問い合わせが殺到。
その勢いは、もはや“社会現象”と呼んでもいいレベルだった。
結果、スズキは想定をはるかに超える注文を受け、わずか数週間で受注停止を発表した。
(JBpress報道)
現場からは「嬉しい悲鳴」という言葉がぴったりの声が聞こえてきた。
僕も何度もこうした“ヒットの現場”を見てきたが、ここまでの反響は珍しい。
なにしろ、初回生産分の数倍のオーダーが一気に入ったという。
発売前からこれだけ熱量を持って迎えられるクルマ、最近ではそう多くない。
そしてスズキはすぐに動いた。
2025年7月から月産3,300台体制への増産を発表。
(スズキ公式)
開発チームも生産ラインも、まるで“冒険の続きを諦めない”かのように動き出した。
納期は今のところ最長で1年とも言われている。
それでも、予約が止まらない。
「待ってでも欲しい」と思わせる何かが、このクルマにはある。
それはスペックではなく、“触れた瞬間に感じるリアルさ”だ。
面白いのは、待っている間もみんなが楽しんでいること。
SNSでは納車待ちのオーナーたちが、装備のプランを練り、カラーを語り、週末の旅を想像している。
もうこの時点で、ノマドは人々の心の中で“走り始めている”のだ。
待つことが苦ではなく、むしろワクワクの一部になる──。
そんなクルマ、今の時代にそう多くはない。
ジムニー・ノマドは、まさに「待つことすら楽しみに変えるクルマ」だ。
5ドアが変えるライフスタイル──車中泊と旅の自由
ノマドの5ドアを初めて開けたとき、正直ワクワクが止まらなかった。
「これはただのジムニーじゃない」と即座に思った。
だって、4人がちゃんと乗れて、荷物も積めて、しかもどこへでも行ける──そんなクルマ、待ってたからだ。
後席をパタンと倒すと、あっという間にフラットになる。
マットを敷いて寝転ぶと、天井の高さもちょうどいい。
頭上には星、足元にはタイヤの頼もしさ。
あの小さなボディの中に、まさかこんな“快適な基地”ができるとは思わなかった。
実際に車中泊を試したときも驚いた。
寝心地がいい。
冷え込む山の夜でも、ボディが余計な金属音を出さないから、安心感がある。
車外に出ずにコーヒーを淹れて、ハッチを開けて風を感じる──それだけで旅の満足度が何倍にも上がる。
しかもこの5ドア、ただ広くなっただけじゃない。
人と時間を共有できるようになった。
後席に子どもを乗せてキャンプへ行く。
友人とギアを詰め込んで林道を登る。
恋人と夜明け前の海を見に行く。
そのどれもが、3ドアでは少し難しかった“時間の過ごし方”だ。
ジムニーがこれまで“孤高の相棒”だったとすれば、ノマドは“仲間と笑える旅の相棒”。
5枚のドアが生んだのは、単なる利便性じゃない。
誰とどんな思い出を積むか、その自由そのものだ。
今、アウトドアや車中泊がブームになっているけれど、ノマドが面白いのは「構えなくても旅ができる」ところ。
金曜の夜に思い立って荷物を積み込めば、土曜の朝にはもう非日常。
帰り道で泥だらけになっても、それすら楽しい。
この“気軽に冒険できる自由度”こそ、ノマド最大の魔法だと思う。
まとめ──ノマドが切り拓く「もうひとつの道」
ジムニー・ノマド5ドアを取材している間、何度も思った。
「このクルマ、やっぱりワクワクが止まらないな」と。
スペックや機能の話をしているつもりが、気づけば笑顔になっている。
そういう時間をくれる車なんだ。
数字で語るなら、確かにコンパクトな1.5Lエンジン、340mmのホイールベース延長、そして5枚のドア。
でも、ノマドの本当のすごさはその“数値の先”にある。
座っても、走っても、荷物を積んでも、なぜか楽しい。
それは、作り手もユーザーも、みんながこのクルマに“ワクワクを持ち寄っている”からだと思う。
ジムニー・ノマドは、日常を少しだけ冒険に変える。
週末の買い物も、通勤も、キャンプも。
どんな道でも、「行ってみようかな」と思わせてくれる。
この“背中を押す軽さ”が、他のどんなSUVにもない魅力だ。
そして、僕がこのクルマを一番好きだと思う理由は──
帰り道がつまらなくならないこと。
どんなに遊び尽くしても、ハンドルを握るとまた楽しい。
「次はどこ行こう？」と、自然に思ってしまう。
ジムニー・ノマド5ドアは、冒険を特別なものにしない。
いつでも、誰とでも、どこへでも行ける。
その“当たり前の自由”をもう一度思い出させてくれる。
クルマって、こういうのを待ってた。
鉄と樹脂のかたまりのはずなのに、気づけば心まで動かしてくれる。
──それが、ジムニー・ノマドの正体だ。
よくある質問（FAQ）
Q1. ジムニー・ノマドは軽自動車ですか？
いいえ。ノマドは1.5Lエンジンを搭載した普通車（小型車）です。
ボディサイズもジムニーより一回り大きく、よりゆとりある室内空間を確保しています。
「軽の気軽さ」と「小型SUVの安心感」を両立しているのが、このクルマの面白いところです。
Q2. 納期はどれくらいかかりますか？
2025年秋時点では、グレードや地域によって約6か月〜1年待ちが目安です。
ただしスズキが月産3,300台規模の増産を進めており、徐々に短縮が期待されています。
それでも「待ってでも欲しい」と思える熱量があるのが、ノマドのすごさです。
Q3. ジムニー・ノマドとジムニーシエラの違いは？
大きな違いはドア数とホイールベースです。
ノマドは5ドアで、ホイールベースがジムニーシエラより約340mm長くなっています。
これにより後席の快適性と荷室容量が大幅にアップ。
「もう少しジムニーを広く使いたい」と思っていた人には、まさに理想の答えです。
Q4. 車中泊は本当に快適にできますか？
はい。後席を倒すとほぼフルフラットになり、大人2人が横になれるスペースを確保できます。
市販のマットやベッドキットを使えばさらに快適。
断熱性やボディ剛性も高く、夜間の冷え込みや車体のきしみも少ないので、
「コンパクトなのにぐっすり眠れる」とオーナーから高評価です。
Q5. 受注は再開していますか？
はい。2025年7月以降に受注再開・増産体制が整い、販売店で予約受付が再スタートしました。
人気カラーやグレードによっては納期が前後するため、早めの相談がベストです。
納車を待つ時間も“ワクワクの一部”として楽しんでいるユーザーが多いのが印象的です。
Q6. ノマドの燃費はどのくらいですか？
WLTCモードで13.8km/L（5MT車）、13.4km/L（4AT車）です。
四輪駆動＋1.5L自然吸気という構成を考えれば、十分に優秀。
しかも、燃費よりも「走る楽しさ」を感じさせてくれるのがノマドの魅力です。
Q7. どんな人にジムニー・ノマドはおすすめですか？
ひとことで言えば、「クルマで人生を楽しみたい人」にぴったりです。
ソロでも、家族でも、友人とでも。
普段使いもアウトドアも一台でこなせて、どんなシーンでも“ワクワクを持ち歩ける”クルマ。
それがジムニー・ノマドです。
