エンジニアの父と、デザイン教師だった母。その二人の間で育ったせいだろう、僕はいつも「機械の中に宿る美しさ」に敏感だった。だからこそ、ジムニー・ノマドが放つこの静かな緊張感に、心の奥がざわつく。
タコメーターの針が、地図の上の未知を指すコンパスのように震える。265万円――この数字は単なる価格ではない。スズキが半世紀かけて磨いてきた“四輪駆動の哲学”と、僕らが再び“道”と向き合うための覚悟の値段だ。
ジムニー・ノマド 価格の真実──265万円に宿る設計思想

- 5速MT車:2,651,000円(税込)
- 4速AT車:2,750,000円(税込)
初めてジムニー・ノマドに触れた瞬間、「あ、これは本気だ」と思った。5ドアになったことで全体のバランスが崩れるかと思いきや、むしろ剛性感が一段階上がっている。ボディを延長しても“ジムニーらしさ”が微塵も失われていないのだ。
ホイールベースは従来シエラより+340mm。この数字を聞いただけではピンとこないかもしれないが、後席に座った瞬間、誰もが違いを感じる。膝まわりに余裕があり、長距離移動でも窮屈さがない。荷室も広がり、キャンプギアや撮影機材をそのまま積める実用性がある。
開発者に取材した際に印象的だったのが、「冒険を生活の中に置きたい」という言葉だ。山へ行くためだけの車ではなく、平日の買い物にも、週末の林道にも同じテンションで使える。だからこの265万円という価格は、単なるコストではなく“自由のチケット”だと感じる。
「街と森を、ひと続きにするSUV」──スズキが目指したのは、その中間地点だった。
出典:スズキ公式サイト
シエラとの価格差に見る“哲学の分岐点”

ジムニー・シエラの価格帯はおよそ222〜258万円。そして新たに登場したノマドは265〜275万円。たった数十万円の差だが、この差額が“ジムニーという概念”をまるごと変えてしまった、と言っていい。
シエラは、どこまでもストイックなクロスカントリーだ。短いボディ、鋭いハンドリング、そしてあの「切り立った道を登るときの軽快さ」。僕もあの軽快さには今でも惚れている。だがノマドに乗り込んだ瞬間、世界が少し違って見えた。広くなった室内、落ち着いた乗り味、そして“人を乗せて走る余裕”がある。
価格差は、単なる装備や寸法の違いじゃない。「誰とどこへ行きたいか」という考え方の違いだ。
ソロで山に挑むか、家族と海へ向かうか。どちらもジムニーらしいが、そのどちらを選ぶかで人生の地図が変わる。僕はこの取材のとき、シエラの隣にノマドを並べてしばらく眺めた。ふと気づくと、自分の中で“冒険”という言葉の意味が少し変わっていた。
だからこそ、このわずかな価格差は、スペック表の数字以上に深い。
それは、自分がどんな時間を走りたいかを問い直すための差額なのだ。
乗り出し300万円の現実──それでも選ばれる理由

ナビ、ETC、ボディコーティング、そして2トーンルーフ。オプションをいくつか足していくと、支払総額はおよそ300万円前後になる。普通なら「ちょっと高いな」と感じてもおかしくない金額だ。だが、ノマドの前では誰もそう言わない。むしろその“300万円で得られる体験”に目を輝かせている。
ディーラーに取材すると、どこも口をそろえて「想定を超える反響です」と笑う。値引きはわずか5〜10万円。納期は数ヶ月待ち。中古市場では新車を上回る300〜350万円台で動いている。それでもキャンセルが出ない。なぜか? 理由は単純だ。みんなが“わかっている”からだ。
このクルマにお金を払うのは、スペックや流行への投資ではない。
自分の時間をどう走りたいかという、もっと根っこの部分への投資だ。
キャンプに行く人もいれば、街乗りでジムニーの世界観を味わう人もいる。どちらも正解だ。ジムニー・ノマドは、使う人の人生を狭めない。むしろ、広げてくれる。
そして、あの名前。「Nomad=放浪者」。
この言葉を聞くだけで、胸の奥が少し騒ぐ。
ノマドとは、ただ山を越える者ではなく、日常を自分の意思で動かす者のこと。
だからこそ、この300万円は高くない。むしろ、“人生をもう一段ギアアップさせる入場料”なのだ。
ジムニー・ノマドが変えた“冒険の定義”

ジムニー・ノマドを一日走らせてみて、まず驚いたのは「これ、想像以上に気持ちいいぞ」という感覚だった。スペック表を見ているときは“実用性重視の5ドア版”くらいに考えていたが、走り出した瞬間にその印象は吹き飛んだ。ステアリングを切るたび、あのジムニー特有の機械が生きているような感触が伝わってくる。
街中では安定感が増して乗りやすい。段差を越えるときの衝撃もマイルドで、まるで足まわりが「落ち着け、今日は旅の始まりだ」と語りかけてくるようだ。峠に入れば4WDの反応が一気にシャープになり、車体が自分の意思にピタリと追従する。思わず「おおっ」と声が出た。
そして、走り終えたあと。エンジンを切って、静けさの中に残る余韻がたまらない。
「ああ、これだ」と思った。走り終えたのに、もう次の目的地を考えている。
それがジムニー・ノマドの魔法だ。走るたびに、また走りたくなる。
このクルマの魅力は、スペックや燃費では語れない。
“冒険”をもっと身近なものにしたという点に尽きる。
遠くへ行かなくてもいい。週末に郊外のカフェへ行くだけで、なぜか心が軽くなる。
ノマドは、“走る理由”そのものをアップデートしたのだ。
冒険とは、遠くへ行くことではなく、自分の心を動かすことなのだ。
結論──「265万円の冒険」は、行き先のある生き方

ジムニー・ノマドの265万円という価格を聞いたとき、僕は思わずニヤッとした。
この金額で、これだけ“ワクワクする自由”が手に入るクルマが今ほかにあるだろうか。
試乗して、撮影して、取材して──何日経っても、この車の話になるとテンションが上がる。
ノマドは、ただのSUVではない。乗り込むたびに、「どこ行く?」と背中を押してくれる相棒だ。
通勤にも使えるし、週末はそのまま林道へ出かけられる。気取らず、でも確実に非日常へ連れて行ってくれる。
そのバランスが本当に絶妙なんだ。
だから僕はこの価格を“コスト”ではなく冒険の入場料だと思っている。
毎日の生活の中にちょっとした刺激が戻ってくる。
信号待ちのたびに「この車を選んでよかった」と思える。
それって、スペックや燃費じゃ測れない価値だ。
もしあなたが、「最近クルマでワクワクしていない」と感じているなら──
一度、ジムニー・ノマドのドアを開けてみてほしい。
あの瞬間、きっと分かる。265万円の冒険とは、クルマを買うことではなく、
自分の生き方をもう一度走らせることなんだ。
FAQ
- Q1. ジムニー・ノマドの新車価格は?
- MTモデルは2,651,000円、ATモデルは2,750,000円(税込)。
5ドア化やボディ補強を考えると、この価格は正直“かなり攻めている”と思う。
この装備内容でこの値段、開発陣の本気が伝わってくる。 - Q2. 値引きや納期の目安は?
- 値引きはおおよそ5〜10万円前後。ディーラーの担当者も「ノマドは動きが早いです」と口をそろえる。
納期は数ヶ月待ちが基本だが、そのぶん“待つ時間すら楽しい”と言うオーナーも多い。
予約の手応えからして、2025年の人気SUVトップクラスは間違いない。 - Q3. シエラとの違いは?
- ノマドは5ドア化で後席と荷室がしっかり使えるようになった。
だから「仲間や家族と遊びに行けるジムニー」になったのが最大の違い。
シエラが“山へ挑む道具”なら、ノマドは“毎日をちょっと冒険に変える相棒”。
試乗してみると、その違いが一瞬でわかる。

