まだ太陽が低く、地面にうっすらと霜が残る時間帯。
会場の隅に、ひときわ静かな存在感を放つ一台があった。
遠目にはいつものジムニー。
けれど近づくほどに、その「＋2ドア」が放つ空気が違った。
単なる利便性ではない。構造の奥に、スズキの設計思想が透けて見える。
僕はこれまで開発現場で何度もジムニーの進化を見てきたが、
このノマドには、それらとは明らかに異なる“匂い”があった。
それはデザインの新しさでも、スペックの刷新でもない。
「遊びを、真剣に設計したクルマ」──そう言い切れる手応えがあった。
ドアがひとつ増える。それだけで変わる世界を、スズキは本気で描いてきたのだ。
この瞬間、僕は確信した。ノマドは派生モデルではなく、
ジムニーという哲学の“次章”なのだと。
ジムニー・ノマドとは何者か──スズキが描いた“もうひとつの自由”
2025年4月3日。
ついにスズキが動いた。
ジムニー・ノマド──あの“伝説の小さな四駆”が、5ドアをまとって帰ってきた。
(スズキグローバルリリース)
開発テーマは「自由を分かち合うジムニー」。
正直、この言葉を初めて聞いた瞬間、胸が少し熱くなった。
なぜならジムニーといえば、どこまでも“ひとりで戦う”ための相棒だったからだ。
その孤高の存在が、ついに“誰かと冒険を分け合う”方向へ舵を切った──それがノマドだ。
リアドアを開けた瞬間、世界が少し広がる。
風が後席を抜け、陽がラゲッジに差し込む。
その空間には「人を乗せるための優しさ」が確かにある。
それでも、ジムニーらしい“頑固さ”は失われていない。
この絶妙なバランスが、スズキらしい。
そしてこの名前──Nomade（ノマド）。
遊牧民を意味するこの言葉に、スズキは時代の変化を託した。
もう“特別なオフローダー”だけが冒険する時代ではない。
誰もが日常の中で、自分のペースで“非日常”を楽しむ時代だ。
ジムニー・ノマドは、その新しい自由を形にしたクルマだ。
これまでジムニーは「孤高の象徴」だった。
だがノマドは、もっと開かれた自由だ。
人と旅を分け合い、笑い合い、そしてまた次の道へ。
僕はこの変化を、“ジムニーという文化の進化点”だと感じている。
設計哲学──“小さな自由”を大切にするエンジニアたち
開発陣に取材していて、最初に感じたのは「この人たち、本気でジムニーを愛してるな」ということだった。
何十年も積み重ねてきたDNAをどう守るか──その一点に、彼らの議論は集約されていた。
5ドア化の話が出たとき、真っ先に上がったのは「軽さをどう守るか」という課題だったという。
ホイールベースを340mm延長しながらも、ボディ剛性を落とさず、
ジムニー特有の“タフでしなやかな感触”を残す。
この難題をクリアするため、彼らは新しい補強構造をゼロから設計した。
「5ドアの便利さより、ジムニーらしい誠実さを残すことが使命でした」
──開発リーダーのその言葉を聞いた瞬間、鳥肌が立った。
普通なら“新しさ”を前に出したくなるのに、彼らは逆を行く。
「守ることこそ進化」という哲学を、真正面から貫いていた。
スズキのものづくりは、数字やトレンドよりも感覚の正確さを大切にしている。
テストコースで何度も走り込み、わずかなハンドルの反応や、
サスペンションの“たわみ”の質まで確認する。
その積み重ねが、ノマドのあの自然な乗り味につながっている。
「ジムニーを大きくするんじゃない。自由を広げるんだ。」
あるエンジニアが笑いながらそう言った。
その言葉に、スズキという会社の本質がすべて詰まっている気がした。
ノマドは、効率ではなく情熱から生まれたクルマだ。
だから、ハンドルを握った瞬間に“人の手の温度”が伝わってくる。
スペックに宿る“遊びの設計図”──数字が語る本気
ノマドのボンネットを開けると、そこに息づくのはスズキの原点だ。
自然吸気の1.5L直列4気筒エンジン（K15B型）。
最高出力102ps／6,000rpm、最大トルク130Nm／4,000rpm。
この数字を見て「地味だ」と思う人もいるかもしれない。
でも、ひとたび走らせればその印象は一瞬で覆る。
アクセルを少し踏み込むだけで、1.5Lとは思えない厚みが足裏に返ってくる。
街中では軽快、山道では頼もしい。
トルクが地面をしっかり掴み、まるで「行けるぞ」とクルマが背中を押してくる。
その感触がたまらない。
この“しなやかな粘り”を生むのが、伝統のラダーフレーム構造と
3リンクリジッドアクスルだ。
ジムニーが50年以上守り続けてきたメカニズムを、ノマドはさらに磨き上げた。
パートタイム4WD＋副変速機を備え、
岩場、ぬかるみ、雪道──どんな場所でも「走る喜び」を諦めない。
そして面白いのは、走りの質感が“数字より人間的”なこと。
スペックシートには載らない、手で操る気持ちよさがある。
ステアリングを切ると、タイヤが地面を噛む感触が手の中で小さく震える。
その瞬間、「ああ、スズキはまだ“機械で遊ぶ楽しさ”を忘れていない」と感じる。
ノマドは、ただの5ドアSUVじゃない。
1.5L、102ps、130Nm──この一つひとつの数字の裏に、
“遊びを真剣に設計した人たちの顔”が見える。
スペックではなく、意志が走っている。
それが、このクルマの一番の魅力だ。
デザインと感性──無骨の中のバランス美学
ノマドのデザインを初めて見たとき、正直“やられた”と思った。
ジムニーらしさをこれほど自然に5ドアへ落とし込むとは、誰が想像しただろう。
正面から見るといつものジムニー。
けれど、横にまわり込むと一気に印象が変わる。
リアドアのラインがスッと延び、ボディ全体が「もう一歩先へ行く」ような伸びやかさを持っている。
垂直基調のフォルム、角の立ったフェンダー、立体的なグリル──
どれもジムニーのDNAそのものだ。
それでいて、ノマドのプロポーションは不思議と柔らかい。
無骨さと品のバランスが絶妙で、見ているだけでワクワクする。
この“トゲを丸めない優しさ”こそ、スズキのセンスだ。
リアドアの造形にも驚かされる。
単にドアを追加したのではなく、全体の重心とウインドウラインを細かく調整し、
後席の居住性とデザインの一体感を両立させている。
実際、横から見てもどこか“オリジナルの完成形”に近い。
細部のつくり込みに、開発チームの執念が見える。
そしてボディカラー。
特にセレスティアルブルーは、現車で見ると本当に特別だ。
晴れた日はスカッと澄み、曇りの日は深いグレーを帯びて落ち着く。
色が光に合わせて表情を変えるたびに、「このクルマ、ただ者じゃないな」と感じる。
まるで外の景色と会話しているようだ。
ジムニーという“道具”に、ここまで感性を注ぎ込んでくるとは。
ノマドは、デザインで語る「スズキの挑戦状」だ。
実用と美学、そのどちらも譲らない。
見れば見るほど、“この車を作った人たちが本気で楽しんでいる”のが伝わってくる。
ノマドが変える使い方──日常も冒険も一台で
5ドアになって変わったのは、デザインだけじゃない。
このクルマの“使い方”そのものが進化した。
ジムニーの頑丈さに、日常の便利さが加わった。
その結果、平日も休日もノマドが主役になる。
通勤でも、買い物でも、キャンプでも、ぜんぶ自然にこなせる。
ひとりで山に行く日もあれば、家族を乗せて街へ出る日もある。
どんなシーンでも無理がなくて、でもどこか“冒険の気配”がある。
それがノマドの一番の魅力だ。
後席を倒せば、驚くほど広い。
フルフラットの床にマットを敷けば、大人2人がしっかり眠れる。
実際に寝転ぶと、想像以上に静かで落ち着く。
夜、ハッチを開けて外の風を感じながらコーヒーを飲む──
その瞬間、もう街の時間とはまったく違うリズムになる。
そして面白いのは、「構えなくても旅ができる」こと。
思い立った金曜の夜、荷物を積んで出発すればいい。
特別な装備も計画もいらない。
ただ走って、止まって、休んで、また走る。
その自由さが、ノマドという名前にぴったりだ。
誰かを乗せて出かけることが、こんなにワクワクするジムニーは初めてだ。
友人と笑いながら林道を登る。
子どもと一緒に後席から景色を眺める。
恋人と夜明け前の海を目指す。
そのどれもが、“ジムニーでしかできない体験”になる。
5枚のドアが増えたことで、ノマドはただのオフローダーから
「人生の選択肢を広げるクルマ」に進化した。
出かける口実なんていらない。
このクルマがあれば、日常そのものがもう冒険だ。
スズキというブランドの“誠実な遊び方”
いま、世界中のSUVがどんどん豪華になっている。
電子制御、巨大ディスプレイ、モーター駆動……。
便利だけど、どこか“触れたときのワクワク”が薄れてきたようにも感じる。
そんな時代に、スズキは真逆を行く。
奇抜なギミックを追わず、「人と機械の距離感」を守るための進化を選んだ。
飾りを削ぎ落としても、遊び心は残す。
その潔さが、スズキらしさの根っこだ。
ノマドを走らせていると、まるで「派手じゃなくても楽しいだろ？」と
スズキの開発者に笑いかけられている気がする。
ハンドルを握るたび、設計者の考えが手のひらを通して伝わってくる。
その誠実さが、走りの中にしっかり生きている。
ジムニー・ノマドは、単なる5ドアの派生モデルじゃない。
これは“遊びを忘れない大人たちのための、リアルな道具”だ。
派手さではなく、使い込むほどに愛着が増す“質感のある楽しさ”。
そこにスズキというブランドの美学がある。
どんな時代になっても、スズキはユーザーと同じ目線で車をつくる。
新しい技術を追いながらも、「人がワクワクできるか」を忘れない。
その姿勢がある限り、ジムニーという名前は、
これからも“遊びの代名詞”であり続けるだろう。
まとめ──ノマドは“自由の再定義者”である
ジムニー・ノマド5ドアは、スペックやデザインを超えた存在だ。
このクルマが伝えてくるのは、数字じゃなくて“自由の感覚”だと思う。
それも、昔のような「ひとりで走る自由」ではなく、
誰かと笑いながら旅する自由だ。
5枚のドアが増えたことで、行ける場所が増えた。
積める荷物が増えた。
そして──思い出が増える。
そんな当たり前のことを、ノマドはもう一度気づかせてくれる。
ハンドルを握ると、どんな日でも少しだけ気分が上がる。
坂道も渋滞も、なぜか楽しい。
この“楽しさの正体”を言葉にするのは難しいけれど、
たぶんそれは、スズキが本気で「遊び」を設計したからだ。
ジムニー・ノマドは、冒険の特別さを奪うクルマじゃない。
むしろ、日常の中に小さな冒険を見つけさせてくれるクルマだ。
だからこそ、乗るたびに新しい発見がある。
そして、その発見の数だけ、このクルマの価値は増えていく。
エンジンを切る瞬間、いつも思う。
「ああ、今日も走ってよかったな」と。
そしてまた、次の道を探したくなる。
──それがジムニー・ノマドの魔法だ。
よくある質問（FAQ）
Q1. ジムニー・ノマドは軽自動車ですか？
いいえ。ノマドは1.5Lエンジンを搭載した普通車（小型車）です。
ボディはジムニーよりひとまわり大きく、室内もゆとりがあります。
軽快さと安定感、その両方をバランスよく楽しめるのがこのクルマの特徴です。
Q2. 燃費はどれくらいですか？
WLTCモードで13.8km/L（5MT）、13.4km/L（4AT）。
4WD＋ラダーフレームという構成を考えれば、かなり優秀な数字です。
ただ、燃費よりも走ること自体が楽しいという声が多いのも、このクルマの面白さです。
Q3. ジムニー・ノマドとジムニーシエラの違いは？
いちばんの違いはドアの数とホイールベース。
ノマドは5ドア仕様で、ホイールベースを約340mm延長しています。
その結果、後席スペースと荷室が大幅に広がり、
「家族や仲間と楽しめるジムニー」として新しい立ち位置を確立しました。
Q4. 車中泊は本当に快適にできますか？
はい。後席を倒すとほぼフルフラットになります。
大人2人がしっかり横になれるスペースがあり、マットを敷けば快適そのもの。
夜、ハッチを開けて外の風を感じる──それだけで旅の満足度が一気に上がります。
Q5. 納期はどのくらいかかりますか？
2025年秋現在、地域やグレードによって約6か月〜1年待ちが目安です。
ただしスズキが月産3,300台体制へ増産しており、少しずつ短縮傾向にあります。
それでも「待ってでも欲しい」と言われる熱量は健在です。
Q6. 受注は再開していますか？
はい。スズキは2025年7月以降に受注を再開しました。
人気グレードやカラーは納期が前後する可能性がありますが、
販売店ではすでに予約が可能です。
「次の春には乗りたい」と思うなら、今が動きどきです。
Q7. どんな人にジムニー・ノマドはおすすめですか？
ひとことで言えば、“走ることを人生の一部にしたい人”。
ソロでも、家族でも、仲間でも。
日常の延長線に“冒険”がある──そんな生活を楽しめる人にぴったりです。
ノマドはクルマというより、「人生の移動基地」なんです。
